2013年 06月 07日
標準治療からはなれて3:補助療法選択の根拠となる遺伝子検査(2) |
前回は、乳がんの補助療法を選択するための根拠として使われている、多重遺伝子診断のOncotype DXについて簡単にまとめてみた。今回は、もう1つの診断方法として挙げられるMammaPrintと2つの検査の違い、そしてこれらの遺伝子診断の問題点や、今後の見通しなどについてまとめてみたい。
日本で臨床使用が可能な多重遺伝子診断(MammaPrint)
MammaPrintは、オランダのAgendiaにて開発された検査方法で、乳がん再発に関する70種類の遺伝子の発現パターンを解析し、遠隔転移のリスクを予測する。術後5年以内の遠隔転移の有無を基準として、患者を高リスク群と低リスク群に分類するというシンプルなものだ。日本ではDNAチップ研究所がこの検査を取り扱っている。
MammmaPrintは、「SYMPHONY」と呼ばれる検査群の1つであり、SYMPHONYにはMammaPrintを含んだ3つの検査が用意されている。現在MammaPritntを受けるということは、以下の3つの検査を受けるということになるようだ。
・MammaPrint
・BluePrint
・TargetPrint
MammaPrintは、先ほど説明したとおり、低リスク群および高リスク群の2種類から1つ結果が表示される。
・低リスクの場合のサンプル(PDFファイル)
・高リスクの場合のサンプル(PDFファイル)
BluePrintは、乳がんの分子診断を行うもので、「Basal-type(基底細胞型)」「Luminal-type(管腔細胞型)」「ERBB2-type(ERBB型)」の3種類にて診断されるようだ。先日、Intrinsic Subtype分類について触れたが、MammaPrintは、Intrinsic Subtype分類と同じくDNAマイクロアレイによる遺伝子解析を行うので、これらの診断とはIntrinsic Subtype分類に基づいたもののようだ。ERBB型は、いわゆるザンクトガレン コンセンサスにおける代替的なサブタイプ「HER2過剰発現」にあたるものだと思う。
(原文ではthe molecular subtypesなので、分子サブタイプ分類というわけなのだが、Test Resultには"An ERBB2-type molecular subtyping result means that the tumor phenotype most closely resembles the ERBB2-type intrinsic subtype."とあり、やはりこの診断自体はintrinsic subtypeに相似しているようだ)
・BluePrint:ERBB2-typeのサンプル(PDFファイル)
TargetPrintは、ER、PgR、HER2タンパクの出現量を結果として示すもののようだ。
・TargetPrintのサンプル(PDFファイル)
さらに、総合的なSYMPHONY summaryというものが発行され、低リスク群の場合は無治療で10年後までに遠隔転移が発生する確率と、推奨される補助療法(低リスク群の場合は内分泌療法=ホルモン療法が推奨となるようだ)を行った場合の10年後までにどれだけリスクが下がるかが示される。
・低リスク群のSYMPHONY summary(PDFファイル)
高リスク群の場合は、無治療で10年後までに遠隔転移が発生する確率と、BluePrintの診断結果に従って推奨される補助療法(化学療法+内分泌療法または分子標的療法+化学療法+内分泌療法または化学療法単独)を行った場合にどれだけリスクが下がるか、また臨床試験のデータを元に、5年後までの遠隔転移が発生する可能性が示される。
・高リスク群のSYMPHONY summary(PDFファイル)
MammaPrtintの対象となる乳がん患者は以下のとおりだ。
・病期(ステージ)1またはステージ2の浸潤性乳がん
・腫瘍のサイズが5センチ以下
・ホルモン受容体陽性・陰性いずれも可
・リンパ節転移(なし~3個まで)
・女性患者
こちらの価格に関して調べてみたが、日本で受けている方があまり見当たらず、詳しいことはよくわからないが、Wikipediaによれば、4200米ドル、2675ユーロとあるので、日本円ではOncotype DXと同じく、やはり30〜40万円ぐらいが相場なのではないだろうか。いずれにせよ、実験的なものになるので、保険適用はされておらず、自由診療となる。
なお、MammaPrintは従来、手術などで取り出したがん組織を1時間以内に採取して、冷蔵保存のままDNAチップ研究所に送る必要があったために、術前にこの検査を受けるかどうかという検討が必要だったが、最近はホルマリン固定パラフィン包埋の組織にも対応しているようなので、Oncotype DXと同じく、術後の補助療法を決定する時期に検査を追加するということも可能になったのかもしれない。私個人としてはMammaPrintに関して詳しい話を直接聞いたことがないので、もし、検査を検討したいという方は主治医に詳細を聞いてみてほしい。
OncotypeDXとMammaPrintの違い
この2つの検査でもっとも大きな違いは、Oncotype DXがホルモン受容体陽性の乳がんのみを対象にしているが、MammaPrintではどちらも対象にしているということだろう。
また、リンパ節転移に関しても、閉経前の場合に転移があった場合、Oncotype DXは適応外になってしまうが、MammaPrintであれば適応となる。
検査結果だが、Oncotype DXが「Recurrence Score(再発スコア)」という名前で、0~100の整数が示され、さらに3つのリスク群(高リスク、中間リスク、低リスク)、MammaPrintは遠隔転移のリスク(Metastasis Risk)としての2つのリスク群(高リスク、低リスク)という差がある。
個人的な興味としては、単なる用語の使い方の問題なのかもしれないが、Recurrence(再発)と(Distant) Metastasis(遠隔転移)は何が違うのかは知りたいところでもあるが。
価格や検査が追加できる時期に大きな違いはなさそうだが(MammaPrintもホルマリン固定パラフィン包埋に対応したようなので)、大きな視点から結果を見られるのは、実はMammaPrintなのかもしれない。ただし、これまでにも書いたとおり、抗がん剤を使うか使わないかという観点での根拠を必要とするのは、圧倒的にホルモン受容体陽性乳がんの患者になると思うので(それ以外に関しては、通常の病理診断によって治療方針はほぼ決められると思う)、Oncotype DXの結果でこと足りるケースがほとんどではないだろうか。
また、日本で利用されているのはOncotype DXの方が多いと推測されるし、今まで会った医師から(って2人だけなんだが……)、MammaPrintの話が出たことはなかった。そして、世界的な知名度やシェアもOncotype DXの方が高そうだ。この辺りは、臨床試験数やその結果による信頼性、そして患者数が多いアメリカの医療保険が検査費用をカバーすることによる利用実績、ガイドラインへの掲載などの理由も考慮しないとならないのかもしれないが、いずれにせよ、利用実績としての1番がOncotype DXで、2番がMammaPrintであることは間違いなさそうだ。
Oncotype DXの中間リスク群は何のためにあるのか?
ぶっちぎりの知名度?があるOncotye DXだが、実は、「中間リスク群」の存在意義が問われている。基本的に中間リスク群に入った場合、ホルモン療法に化学療法を上乗せするかは、患者の意向やベースラインリスクがどれだけあるかなどで決めることになるようなのだが、いずれにせよ宙ぶらりんの状態であるのは確かだ。患者としても、どうするかを決めるために検査を受けるわけなので、こんな曖昧なリスク群を作られても正直なところ困るといったところだろう。
そこで、現在の中間リスク群に対して、化学療法の効果を検証するための前向き試験として、現在、The TAILORx Trial(Hormone Therapy With or Without Combination Chemotherapy in Treating Women Who Have Undergone Surgery for Node-Negative Breast Cancer)が進行中である。この臨床試験は、再発スコア(RS)が11〜25の患者に対して、ホルモン療法が化学療法、ホルモン療法+化学療法より劣らないかどうかを調べるために行われているもので、再発スコア(RS)が11〜25の患者を2つのグループに分け、それぞれをホルモン療法単独or ホルモン療法+化学療法にランダム化し、無再発生存率が最終的にどうなるかを見ている。
一方でMammaPrintでも、MINDACT (Microarray In Node-negative and 1 to 3 positive lymph node Disease may Avoid ChemoTherapy)という、リンパ節転移陰性の早期乳がん例を対象として、化学療法の施行可否の基準を明確化することを目的とした前向き試験が行われている。この臨床試験では、Mamma Printで低リスクとされたが、Adjuvant! Online(従来から使われている予後予測ツール)で高リスクと予測された患者が化学療法を施行しなくてもよいかどうかを調べるために行われている。両方の予測ツールにおける低リスク(13%)に対してはホルモン療法単独、両方の予測ツールにおける高リスク(55%)に対しては、化学療法+ホルモン療法を行い、無遠隔転移生存率が最終的にどうなるかを見ている。
※やっぱりここでも再発と遠隔転移なのがまた謎……
これら2つの臨床試験の結果により、リスク群の再編成が行われることになれば、多重遺伝子診断の精度はさらに上がることだろう。患者の補助治療選択のための、より確かな根拠に発展していくことを望みたい。
何度も書いているが、この検査はお世辞にも安くないので、費用が壁になることもあり得るだろう。精度を上げるとともに、実際に有用なのであれば、アンジーのコラムにもあったように、「より多くの女性が優先的に確実な遺伝子検査と救命的な予防処置を行えるようになる必要がある」のは、この件にも当てはまることではないだろうか。
More以降では、このような多重遺伝子診断を受けるにあたって患者として考えておきたいことと、なぜ私がOncotype DXを受けたかという、個人的な話を少し書いてみたので、興味があれば。
多重遺伝子診断を受ける前に考えておきたいこと
こういった遺伝子を使った検査というのは、結果がそれなりのものとして出るかわりに、結果そのものがリスクになることがあります。たとえば、低リスク群に入ることを望んで(想定して)検査を受ける場合、もしも中間リスク群や高リスク群という結果が出たら、その結果自体がリスクになりうるのです。そういった場合にどうするのかということを、事前に主治医や家族などと相談したうえで、その場合の希望を伝えておくといいのかもしれません。なぜなら、検査結果が想定外だった場合に動揺してしまい、正常な判断を下すのが難しくなるかもしれないからです。
私の場合は、検査を受けると決めたときに、主治医ことボンボンに次の質問をしました。
・先生が低リスク群と想定していた患者さんは、どのリスク群という結果になりましたか?
・低リスク群以外になった場合、どのような治療方針を推奨しますか?
ボンボンの答えは以下の通りでした。
「これまで、低リスク群と想定していた患者さんの中で、中間リスク群に入った人はいますが、高リスク群に入った人はいません。中間リスク群に入ったとしても、高リスク群に入らない限り効果があまりないので、基本的に抗がん剤を使った治療は推奨しません。ただ、どうしても上乗せしたいという希望があるなら別ですよ」
なので、もし私が中間リスク群になったとしても、抗がん剤は使いたくないという希望を先に伝えておきました。結果は想定どおりだったので、この希望に関して話し合うことはありませんでしたが、事前に主治医がスコア群それぞれをどうとらえているのか、また想定外の結果が出た場合に、どのような治療方針を考えているのかを聞いておくのが良いのではないかと考えていました。その方針に疑問がある場合は、セカンドオピニオンなどを考える必要もありそうですね。
この先中間リスク群は変わるのか
私のOncotype DXにおけるRecurrence Scoreは低リスク群に入っていますが、実は、上でも紹介したThe TAILORx Trialにおいて、該当スコア群に位置します(つまり、RSが11以上ということです)。ということは、このThe TAILORx Trialの結果が出る頃(よくわからないんですが、内容を読んでる限りは2017年?ごろ?いずれにせよ、まだ先みたいです)には、化学療法が推奨される群に入るのかもしれません。ただ、それは現時点ではわからないことなので、低リスク群という結果のまま受け入れていますし、それで納得しています。
Why Oncotype DX?
私がOncotype DXを受けたのは、自分に推奨されている補助治療を選択する妥当性を(お金を使ってでも)可能な限り担保したかったからです。手術後の病理診断からも、主治医からも、「再発のリスクは低いので、ホルモン治療単独を推奨」という方針を示されていましたし、私個人の希望も「ホルモン治療単独」でした。
これだけリスクが低いと言われており、自分の意思も決まっているのに、高いお金をかけてまで、なぜこの検査を受けたのかと思われるかもしれません。しかし、自分にこれから起こるかもしれない可能性を現実的な再発スコアという「数字」で把握することで、未来に対する不安を少しでも減らしたかったので、自費で検査を受けることにしました。
私は、この検査によって再発する可能性が低いことを確認したかったのではなくて、現時点で推奨されている治療を受けると、10年後までの再発の可能性はどれぐらいあって、そこに化学療法という治療を上乗せすると利益があるのかという、客観的な数字を知りたかったのです。それを知った上で、最終的に自分の意思で治療方法を選択したかったというのが、この検査を受けた理由でもあります。
もちろん、この検査の結果は平均値ですし、そもそも再発率は0%ではないので、今後再発する可能性が減ったというわけではありません。ただ、もしそうなってしまったとしても、「ああ、初期治療のときに治療を上乗せしておけばよかった」と思う可能性を、少なくともこの検査を受けたことで、減らせたはずなのです。再発に対する不安がなくなったわけではありませんが、その不安を妥当なものにしているといった感じでしょうか。
どんな検査を受けるか、そしてどんな治療を受けるかを決めることは、患者個人が持つ権利ですし、どの検査を受けるのも、どの治療を受けるのも、医師やガイドラインなどの推奨はあっても、正解はないはずです。ただ、こういった検査の結果を、選択の根拠の1つにできるかもしれないということは知っておいてもいいような気がするのです。もちろん、この検査が万能というわけではありませんし、絶対でもないと思います。
長くなりましたが、私個人の補助療法に関する選択プロセスはこんな感じでした。
これも、いわば今流行の“My Medical Choice”なのかなと思いました(笑)。
この先、自分が納得できる治療を、いろいろな情報をもとにしながら選択できるようになりますように(そして、できれば安価に……)!
日本で臨床使用が可能な多重遺伝子診断(MammaPrint)
MammaPrintは、オランダのAgendiaにて開発された検査方法で、乳がん再発に関する70種類の遺伝子の発現パターンを解析し、遠隔転移のリスクを予測する。術後5年以内の遠隔転移の有無を基準として、患者を高リスク群と低リスク群に分類するというシンプルなものだ。日本ではDNAチップ研究所がこの検査を取り扱っている。
MammmaPrintは、「SYMPHONY」と呼ばれる検査群の1つであり、SYMPHONYにはMammaPrintを含んだ3つの検査が用意されている。現在MammaPritntを受けるということは、以下の3つの検査を受けるということになるようだ。
・MammaPrint
・BluePrint
・TargetPrint
MammaPrintは、先ほど説明したとおり、低リスク群および高リスク群の2種類から1つ結果が表示される。
・低リスクの場合のサンプル(PDFファイル)
・高リスクの場合のサンプル(PDFファイル)
BluePrintは、乳がんの分子診断を行うもので、「Basal-type(基底細胞型)」「Luminal-type(管腔細胞型)」「ERBB2-type(ERBB型)」の3種類にて診断されるようだ。先日、Intrinsic Subtype分類について触れたが、MammaPrintは、Intrinsic Subtype分類と同じくDNAマイクロアレイによる遺伝子解析を行うので、これらの診断とはIntrinsic Subtype分類に基づいたもののようだ。ERBB型は、いわゆるザンクトガレン コンセンサスにおける代替的なサブタイプ「HER2過剰発現」にあたるものだと思う。
(原文ではthe molecular subtypesなので、分子サブタイプ分類というわけなのだが、Test Resultには"An ERBB2-type molecular subtyping result means that the tumor phenotype most closely resembles the ERBB2-type intrinsic subtype."とあり、やはりこの診断自体はintrinsic subtypeに相似しているようだ)
・BluePrint:ERBB2-typeのサンプル(PDFファイル)
TargetPrintは、ER、PgR、HER2タンパクの出現量を結果として示すもののようだ。
・TargetPrintのサンプル(PDFファイル)
さらに、総合的なSYMPHONY summaryというものが発行され、低リスク群の場合は無治療で10年後までに遠隔転移が発生する確率と、推奨される補助療法(低リスク群の場合は内分泌療法=ホルモン療法が推奨となるようだ)を行った場合の10年後までにどれだけリスクが下がるかが示される。
・低リスク群のSYMPHONY summary(PDFファイル)
高リスク群の場合は、無治療で10年後までに遠隔転移が発生する確率と、BluePrintの診断結果に従って推奨される補助療法(化学療法+内分泌療法または分子標的療法+化学療法+内分泌療法または化学療法単独)を行った場合にどれだけリスクが下がるか、また臨床試験のデータを元に、5年後までの遠隔転移が発生する可能性が示される。
・高リスク群のSYMPHONY summary(PDFファイル)
MammaPrtintの対象となる乳がん患者は以下のとおりだ。
・病期(ステージ)1またはステージ2の浸潤性乳がん
・腫瘍のサイズが5センチ以下
・ホルモン受容体陽性・陰性いずれも可
・リンパ節転移(なし~3個まで)
・女性患者
こちらの価格に関して調べてみたが、日本で受けている方があまり見当たらず、詳しいことはよくわからないが、Wikipediaによれば、4200米ドル、2675ユーロとあるので、日本円ではOncotype DXと同じく、やはり30〜40万円ぐらいが相場なのではないだろうか。いずれにせよ、実験的なものになるので、保険適用はされておらず、自由診療となる。
なお、MammaPrintは従来、手術などで取り出したがん組織を1時間以内に採取して、冷蔵保存のままDNAチップ研究所に送る必要があったために、術前にこの検査を受けるかどうかという検討が必要だったが、最近はホルマリン固定パラフィン包埋の組織にも対応しているようなので、Oncotype DXと同じく、術後の補助療法を決定する時期に検査を追加するということも可能になったのかもしれない。私個人としてはMammaPrintに関して詳しい話を直接聞いたことがないので、もし、検査を検討したいという方は主治医に詳細を聞いてみてほしい。
OncotypeDXとMammaPrintの違い
この2つの検査でもっとも大きな違いは、Oncotype DXがホルモン受容体陽性の乳がんのみを対象にしているが、MammaPrintではどちらも対象にしているということだろう。
また、リンパ節転移に関しても、閉経前の場合に転移があった場合、Oncotype DXは適応外になってしまうが、MammaPrintであれば適応となる。
検査結果だが、Oncotype DXが「Recurrence Score(再発スコア)」という名前で、0~100の整数が示され、さらに3つのリスク群(高リスク、中間リスク、低リスク)、MammaPrintは遠隔転移のリスク(Metastasis Risk)としての2つのリスク群(高リスク、低リスク)という差がある。
個人的な興味としては、単なる用語の使い方の問題なのかもしれないが、Recurrence(再発)と(Distant) Metastasis(遠隔転移)は何が違うのかは知りたいところでもあるが。
価格や検査が追加できる時期に大きな違いはなさそうだが(MammaPrintもホルマリン固定パラフィン包埋に対応したようなので)、大きな視点から結果を見られるのは、実はMammaPrintなのかもしれない。ただし、これまでにも書いたとおり、抗がん剤を使うか使わないかという観点での根拠を必要とするのは、圧倒的にホルモン受容体陽性乳がんの患者になると思うので(それ以外に関しては、通常の病理診断によって治療方針はほぼ決められると思う)、Oncotype DXの結果でこと足りるケースがほとんどではないだろうか。
また、日本で利用されているのはOncotype DXの方が多いと推測されるし、今まで会った医師から(って2人だけなんだが……)、MammaPrintの話が出たことはなかった。そして、世界的な知名度やシェアもOncotype DXの方が高そうだ。この辺りは、臨床試験数やその結果による信頼性、そして患者数が多いアメリカの医療保険が検査費用をカバーすることによる利用実績、ガイドラインへの掲載などの理由も考慮しないとならないのかもしれないが、いずれにせよ、利用実績としての1番がOncotype DXで、2番がMammaPrintであることは間違いなさそうだ。
Oncotype DXの中間リスク群は何のためにあるのか?
ぶっちぎりの知名度?があるOncotye DXだが、実は、「中間リスク群」の存在意義が問われている。基本的に中間リスク群に入った場合、ホルモン療法に化学療法を上乗せするかは、患者の意向やベースラインリスクがどれだけあるかなどで決めることになるようなのだが、いずれにせよ宙ぶらりんの状態であるのは確かだ。患者としても、どうするかを決めるために検査を受けるわけなので、こんな曖昧なリスク群を作られても正直なところ困るといったところだろう。
そこで、現在の中間リスク群に対して、化学療法の効果を検証するための前向き試験として、現在、The TAILORx Trial(Hormone Therapy With or Without Combination Chemotherapy in Treating Women Who Have Undergone Surgery for Node-Negative Breast Cancer)が進行中である。この臨床試験は、再発スコア(RS)が11〜25の患者に対して、ホルモン療法が化学療法、ホルモン療法+化学療法より劣らないかどうかを調べるために行われているもので、再発スコア(RS)が11〜25の患者を2つのグループに分け、それぞれをホルモン療法単独or ホルモン療法+化学療法にランダム化し、無再発生存率が最終的にどうなるかを見ている。
一方でMammaPrintでも、MINDACT (Microarray In Node-negative and 1 to 3 positive lymph node Disease may Avoid ChemoTherapy)という、リンパ節転移陰性の早期乳がん例を対象として、化学療法の施行可否の基準を明確化することを目的とした前向き試験が行われている。この臨床試験では、Mamma Printで低リスクとされたが、Adjuvant! Online(従来から使われている予後予測ツール)で高リスクと予測された患者が化学療法を施行しなくてもよいかどうかを調べるために行われている。両方の予測ツールにおける低リスク(13%)に対してはホルモン療法単独、両方の予測ツールにおける高リスク(55%)に対しては、化学療法+ホルモン療法を行い、無遠隔転移生存率が最終的にどうなるかを見ている。
※やっぱりここでも再発と遠隔転移なのがまた謎……
これら2つの臨床試験の結果により、リスク群の再編成が行われることになれば、多重遺伝子診断の精度はさらに上がることだろう。患者の補助治療選択のための、より確かな根拠に発展していくことを望みたい。
何度も書いているが、この検査はお世辞にも安くないので、費用が壁になることもあり得るだろう。精度を上げるとともに、実際に有用なのであれば、アンジーのコラムにもあったように、「より多くの女性が優先的に確実な遺伝子検査と救命的な予防処置を行えるようになる必要がある」のは、この件にも当てはまることではないだろうか。
More以降では、このような多重遺伝子診断を受けるにあたって患者として考えておきたいことと、なぜ私がOncotype DXを受けたかという、個人的な話を少し書いてみたので、興味があれば。
多重遺伝子診断を受ける前に考えておきたいこと
こういった遺伝子を使った検査というのは、結果がそれなりのものとして出るかわりに、結果そのものがリスクになることがあります。たとえば、低リスク群に入ることを望んで(想定して)検査を受ける場合、もしも中間リスク群や高リスク群という結果が出たら、その結果自体がリスクになりうるのです。そういった場合にどうするのかということを、事前に主治医や家族などと相談したうえで、その場合の希望を伝えておくといいのかもしれません。なぜなら、検査結果が想定外だった場合に動揺してしまい、正常な判断を下すのが難しくなるかもしれないからです。
私の場合は、検査を受けると決めたときに、主治医ことボンボンに次の質問をしました。
・先生が低リスク群と想定していた患者さんは、どのリスク群という結果になりましたか?
・低リスク群以外になった場合、どのような治療方針を推奨しますか?
ボンボンの答えは以下の通りでした。
「これまで、低リスク群と想定していた患者さんの中で、中間リスク群に入った人はいますが、高リスク群に入った人はいません。中間リスク群に入ったとしても、高リスク群に入らない限り効果があまりないので、基本的に抗がん剤を使った治療は推奨しません。ただ、どうしても上乗せしたいという希望があるなら別ですよ」
なので、もし私が中間リスク群になったとしても、抗がん剤は使いたくないという希望を先に伝えておきました。結果は想定どおりだったので、この希望に関して話し合うことはありませんでしたが、事前に主治医がスコア群それぞれをどうとらえているのか、また想定外の結果が出た場合に、どのような治療方針を考えているのかを聞いておくのが良いのではないかと考えていました。その方針に疑問がある場合は、セカンドオピニオンなどを考える必要もありそうですね。
この先中間リスク群は変わるのか
私のOncotype DXにおけるRecurrence Scoreは低リスク群に入っていますが、実は、上でも紹介したThe TAILORx Trialにおいて、該当スコア群に位置します(つまり、RSが11以上ということです)。ということは、このThe TAILORx Trialの結果が出る頃(よくわからないんですが、内容を読んでる限りは2017年?ごろ?いずれにせよ、まだ先みたいです)には、化学療法が推奨される群に入るのかもしれません。ただ、それは現時点ではわからないことなので、低リスク群という結果のまま受け入れていますし、それで納得しています。
Why Oncotype DX?
私がOncotype DXを受けたのは、自分に推奨されている補助治療を選択する妥当性を(お金を使ってでも)可能な限り担保したかったからです。手術後の病理診断からも、主治医からも、「再発のリスクは低いので、ホルモン治療単独を推奨」という方針を示されていましたし、私個人の希望も「ホルモン治療単独」でした。
これだけリスクが低いと言われており、自分の意思も決まっているのに、高いお金をかけてまで、なぜこの検査を受けたのかと思われるかもしれません。しかし、自分にこれから起こるかもしれない可能性を現実的な再発スコアという「数字」で把握することで、未来に対する不安を少しでも減らしたかったので、自費で検査を受けることにしました。
私は、この検査によって再発する可能性が低いことを確認したかったのではなくて、現時点で推奨されている治療を受けると、10年後までの再発の可能性はどれぐらいあって、そこに化学療法という治療を上乗せすると利益があるのかという、客観的な数字を知りたかったのです。それを知った上で、最終的に自分の意思で治療方法を選択したかったというのが、この検査を受けた理由でもあります。
もちろん、この検査の結果は平均値ですし、そもそも再発率は0%ではないので、今後再発する可能性が減ったというわけではありません。ただ、もしそうなってしまったとしても、「ああ、初期治療のときに治療を上乗せしておけばよかった」と思う可能性を、少なくともこの検査を受けたことで、減らせたはずなのです。再発に対する不安がなくなったわけではありませんが、その不安を妥当なものにしているといった感じでしょうか。
どんな検査を受けるか、そしてどんな治療を受けるかを決めることは、患者個人が持つ権利ですし、どの検査を受けるのも、どの治療を受けるのも、医師やガイドラインなどの推奨はあっても、正解はないはずです。ただ、こういった検査の結果を、選択の根拠の1つにできるかもしれないということは知っておいてもいいような気がするのです。もちろん、この検査が万能というわけではありませんし、絶対でもないと思います。
長くなりましたが、私個人の補助療法に関する選択プロセスはこんな感じでした。
これも、いわば今流行の“My Medical Choice”なのかなと思いました(笑)。
この先、自分が納得できる治療を、いろいろな情報をもとにしながら選択できるようになりますように(そして、できれば安価に……)!
by sunday_tourist
| 2013-06-07 06:38
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