2013年 12月 14日
タモキシフェンとトレミフェン |
先日、ちょっとBlogを見てくださった方から、質問を受けたのでまとめておこうかと。
通常、乳がんが初発であり、術後などの病理診断結果で、ホルモン受容体(ER、PgR)が陽性の場合は、抗エストロゲン薬(選択的エストロゲン受容体モジュレーター 、SERM)が処方されることが多いです。このSERMとして、閉経前、閉経後の両方で使えるものに、タモキシフェンがあります。実際のところ閉経後の方は、最近のファーストチョイスとしてアロマターゼ阻害薬が推奨されているようなので、現在タモキシフェンは閉経前の内分泌療法の軸とされているのではないかと思います。
タモキシフェンには効果が見られない場合がある
そのタモキシフェンですが、最近一部の患者で薬の効果が見られないことが論文などで報告されています。その原因の1つとして挙げられるのが、タモキシフェンを肝臓で分解する力があるかないかで、この力は「CYP2D6」遺伝子を検査することでわかるとされています。ここで一度、その検査について触れたのですが、この検査の結果、CYP2D6の代謝機能が低い、もしくは代謝機能を全く持っていない遺伝子タイプという結果の場合、タモキシフェンの効果を得にくいとされています。その場合、タモキシフェンを増量したり、タモキシフェンと同じくSERMであり、CYP2D6以外の酵素で代謝されるトレミフェン(商品名:フェアストン)を投与するという方法がとられることもあります。
トレミフェンは、日本の乳がん診療ガイドラインにおいて、閉経前の患者に対する術後の内分泌療法としてのオプションに入っていませんので、こちらを選ぶということは、標準治療から外れることになるのかもしれません。しかし、CYP2D6遺伝子検査で代謝機能がないという結果が出るのであれば、トレミフェンを選択肢に入れるということは十分考えられます。
タモキシフェンもトレミフェンも健康保険は適用される
ご質問された方は、CYP2D6遺伝子検査の結果が低代謝だったので、トレミフェンに変更したいと主治医に申し出たところ、閉経前の乳がんの補助療法にトレミフェンは処方できない、保険適用していない、と言われたそうです。私は何度かここで、閉経前でホルモン受容体は陽性、しかしタモキシフェンではなく、トレミフェンが処方されていると書いていますが、それに対して保険適用している処方なのかというご質問でした。
お答えとしては、私は保険適用外の治療は、(治療ではないかもしれませんが)OncotypeDX以外受けていません。すなわち、トレミフェンもすべて保険適用内での処方です。そして、閉経前の乳がん患者に対する、トレミフェンの処方ですが、医療機関から提出されるレセプトについて、保険者からの委託を受けて審査と請求支払の業務を行うための「社会保険診療報酬支払基金」から、このような(PDFファイルです)通達がすでに出ています。
要約すると以下のようになります。
・トレミフェンの承認されている効能・効果は閉経後の乳がんであり、閉経前の乳がんではない。
・しかし、タモキシフェンと薬理作用が同様と推定されているので、原則として、トレミフェンを閉経前乳がんに対し処方した場合も審査上認める。
つまり、レセプト上閉経前でトレミフェンが処方されたとしても、保険適用されるということなのです。
効果に関しては明らかではないが……
トレミフェンを閉経前乳がんの内分泌治療に使った場合、タモキシフェンとその成績は同等であると推測されていますが、いわゆるエビデンスはまだありません。なので、トレミフェンの処方を望むというのは、ある意味自己責任的な部分があるということは否めません。とはいえ、CYP2D6遺伝子検査の結果が低代謝と出た場合、医師としてトレミフェンの使用を選択肢の一つとして示すということは推奨されてもいいのではないかと思っています。
ちなみに、私の場合はCYP2D6遺伝子検査を受けた結果としてトレミフェンを処方されたわけではないのですが、ご質問いただいた方のお話を聞いて、きっと、とてもお困りなんだろうなぁと思いました。「保険適用していない」は、患者がちょっと調べればわかる話なので、これを理由に処方しないというのは医師側の怠慢であるとしか言えません。ほかの理由があるのなら、それを正直に話すべきじゃないかと。
ちなみに薬価は
トレミフェン(商品名:フェアストン錠40)=395.50円
タモキシフェン(商品名:ノルバデックス錠20mg)=341.30円
だそうです。どちらもジェネリックがあるのですが、タモキシフェンの方が豊富ですね。
というわけで、非公開コメントさま、ちょっと勝手にお話を公にしてしまいましたが、実際同じことで悩んでいらっしゃる方がいるかと思い、まとめさせていただきました。もし、公開しないで~ということであれば、いつでも削除しますので、お手数ですが、お知らせくださいませ~!
通常、乳がんが初発であり、術後などの病理診断結果で、ホルモン受容体(ER、PgR)が陽性の場合は、抗エストロゲン薬(選択的エストロゲン受容体モジュレーター 、SERM)が処方されることが多いです。このSERMとして、閉経前、閉経後の両方で使えるものに、タモキシフェンがあります。実際のところ閉経後の方は、最近のファーストチョイスとしてアロマターゼ阻害薬が推奨されているようなので、現在タモキシフェンは閉経前の内分泌療法の軸とされているのではないかと思います。
タモキシフェンには効果が見られない場合がある
そのタモキシフェンですが、最近一部の患者で薬の効果が見られないことが論文などで報告されています。その原因の1つとして挙げられるのが、タモキシフェンを肝臓で分解する力があるかないかで、この力は「CYP2D6」遺伝子を検査することでわかるとされています。ここで一度、その検査について触れたのですが、この検査の結果、CYP2D6の代謝機能が低い、もしくは代謝機能を全く持っていない遺伝子タイプという結果の場合、タモキシフェンの効果を得にくいとされています。その場合、タモキシフェンを増量したり、タモキシフェンと同じくSERMであり、CYP2D6以外の酵素で代謝されるトレミフェン(商品名:フェアストン)を投与するという方法がとられることもあります。
トレミフェンは、日本の乳がん診療ガイドラインにおいて、閉経前の患者に対する術後の内分泌療法としてのオプションに入っていませんので、こちらを選ぶということは、標準治療から外れることになるのかもしれません。しかし、CYP2D6遺伝子検査で代謝機能がないという結果が出るのであれば、トレミフェンを選択肢に入れるということは十分考えられます。
タモキシフェンもトレミフェンも健康保険は適用される
ご質問された方は、CYP2D6遺伝子検査の結果が低代謝だったので、トレミフェンに変更したいと主治医に申し出たところ、閉経前の乳がんの補助療法にトレミフェンは処方できない、保険適用していない、と言われたそうです。私は何度かここで、閉経前でホルモン受容体は陽性、しかしタモキシフェンではなく、トレミフェンが処方されていると書いていますが、それに対して保険適用している処方なのかというご質問でした。
お答えとしては、私は保険適用外の治療は、(治療ではないかもしれませんが)OncotypeDX以外受けていません。すなわち、トレミフェンもすべて保険適用内での処方です。そして、閉経前の乳がん患者に対する、トレミフェンの処方ですが、医療機関から提出されるレセプトについて、保険者からの委託を受けて審査と請求支払の業務を行うための「社会保険診療報酬支払基金」から、このような(PDFファイルです)通達がすでに出ています。
要約すると以下のようになります。
・トレミフェンの承認されている効能・効果は閉経後の乳がんであり、閉経前の乳がんではない。
・しかし、タモキシフェンと薬理作用が同様と推定されているので、原則として、トレミフェンを閉経前乳がんに対し処方した場合も審査上認める。
つまり、レセプト上閉経前でトレミフェンが処方されたとしても、保険適用されるということなのです。
効果に関しては明らかではないが……
トレミフェンを閉経前乳がんの内分泌治療に使った場合、タモキシフェンとその成績は同等であると推測されていますが、いわゆるエビデンスはまだありません。なので、トレミフェンの処方を望むというのは、ある意味自己責任的な部分があるということは否めません。とはいえ、CYP2D6遺伝子検査の結果が低代謝と出た場合、医師としてトレミフェンの使用を選択肢の一つとして示すということは推奨されてもいいのではないかと思っています。
ちなみに、私の場合はCYP2D6遺伝子検査を受けた結果としてトレミフェンを処方されたわけではないのですが、ご質問いただいた方のお話を聞いて、きっと、とてもお困りなんだろうなぁと思いました。「保険適用していない」は、患者がちょっと調べればわかる話なので、これを理由に処方しないというのは医師側の怠慢であるとしか言えません。ほかの理由があるのなら、それを正直に話すべきじゃないかと。
ちなみに薬価は
トレミフェン(商品名:フェアストン錠40)=395.50円
タモキシフェン(商品名:ノルバデックス錠20mg)=341.30円
だそうです。どちらもジェネリックがあるのですが、タモキシフェンの方が豊富ですね。
というわけで、非公開コメントさま、ちょっと勝手にお話を公にしてしまいましたが、実際同じことで悩んでいらっしゃる方がいるかと思い、まとめさせていただきました。もし、公開しないで~ということであれば、いつでも削除しますので、お手数ですが、お知らせくださいませ~!
by sunday_tourist
| 2013-12-14 15:45
| その他の治療など