2013年 05月 08日
標準治療からはなれて1:「切らない」という選択 |
乳がんの標準治療を受ける場合、外科手術が適応となれば、乳房にメスを入れることになるのは何度も書いてきたとおりだ。このような乳がんの手術で乳房を失ったり、傷が残ってしまうダメージは、自分も経験者であるがかなりのストレスである。だから、乳房の変形なく、手術跡も目立たないような治療方法があれば、それにこしたことはない。ましてや、乳房にメスを入れないでいいのであれば、さらにうれしい。
おそらく、乳がんになった場合の典型的なマイナスイメージの1つに「手術で乳房を取る」があると思うが、このようにボディイメージの変化に対する恐れから、乳がんの精密検査や治療を先延ばしにしている女性がいるということも事実だ。
外科的治療は、初期治療の一部であり、「(部分的にしろ全部にしろ)乳房を切りとる」という局所療法だ。治療ではあるが、切除した乳房は変形するし、それなりの傷も残るといった不可逆的なものだ。 それらを避けたいのであれば、できるだけ傷を小さくする、もしくは、そもそも乳房にメスを入れないという方法がいくつかある。
傷の小さな手術
・鏡視下乳房手術(内視鏡を使った術式)
乳房にメスを入れない方法
・ラジオ波熱凝固療法(RFA)
・FUS(MRgFUS:MRガイド下集束超音波手術)
・その他(凍結療法など)
・鏡視下乳房手術(内視鏡を使った術式)
内視鏡を用いた乳がんの手術は、乳房にできるだけ傷を残さないことを目的に開発された術式だ。脇の下と乳輪にメスを入れ、そこから内視鏡を挿入て切除するというのが基本のようだ。腫瘍の部位によっては、メスを入れるのは脇の下のみ、または乳輪周囲と脇の下の場合もある。どちらの場合も、傷跡はほとんど目立たない。この術式は、乳房温存術と乳房切除術のどちらにも適用でき、乳房切除術と同じく乳腺を全摘した場合でも、皮膚に大きな傷を残すことなく、再建を可能としている。
なお、内視鏡を用いた乳がんの手術は2002年4月には保険適用になり、いわゆる乳房温存術と同程度の保険点数となっている。
内視鏡を用いた乳がん手術の成績としては、いくつかの施設内における内視鏡乳がん手術の成績を評価し、従来の乳がん手術と比べて遜色のない5年生存率などの成績を発表しているようだ。しかし、多施設における長期成績は出ておらず、内視鏡乳がん手術のエビデンスとして弱い部分とされている。また、手術にかかる時間が通常の術式よりも長くなりやすいかつ、特殊な医療装置が必要になるために、なかなか普及しないという背景もあるようだ。
内視鏡を使った手術は傷が小さいとはいえ、手術の1つである。以下は、乳房に「メスを入れない」という究極の局所療法である。ただし、どの方法も保険適用外のため、自由診療となる。
・ラジオ波熱凝固療法
がん細胞は42度から43度になると死ぬという現象を利用して、超音波、レーザー、マイクロ波、ラジオ波等を利用した新しい装置が開発され、ごく短時間で癌細胞が死んでしまう温度までがんを加熱することが 可能となっている。 このうち、ラジオ波を用いたラジオ波熱凝固療法(ラジオ波療法)は肝臓がんに対して2004年に保険適用も認められ、一気に全国に普及した。
ラジオ波療法は、がんの中に細い針状の電極を差し込んでラジオ波を流し、発生する熱でがんを焼く治療法だ。通常15分程度で終わり、手術が不要で傷も残らず、体への負担が比較的少ないのが特徴だ。
現在は肝臓がんの治療法として適用されているラジオ波療法だが、乳がんへの追加適用が検討されている。 ただし、 まだ乳がんに対するラジオ波熱凝固療法は、長期成績が存在しておらず、 センチネルリンパ節生検などと同様に実験的治療に位置づけられ、乳房に傷を残したくない、 乳房の変形が嫌だ、といった人がこの治療の基本的対象となる。
現在、この治療法を行っている病院施設は、臨床試験的な位置づけで行っているところと、臨床試験以外の自由診療として行っているところの2つのスタンスがあり、前者は臨床試験なので厳格なプロトコール下に行われるが、後者は個人の希望によるところが大きいとされている。近年、後者の自由診療にてラジオ波療法を行った患者が再発し、そのラジオ波療法を受けたところではない、ほかの医療機関に駆け込んでいるという報告が日本乳癌学会複数寄せられたとのこと。自由診療の場合は価格が30~40万円前後らしい。
・FUS(MRgFUS:MRガイド下集束超音波手術)
FUS(MRgFUS:MRガイド下集束超音波手術)とは、集束超音波(虫眼鏡の原理で超音波のエネルギーを1点に集める)により、病巣を焼灼する手術だ。またMRガイド下とは、MRIを施行しながら、病巣の場所を正確に特定し、治療している場所や温度変化を常に把握しながら行うことを指す。治療はMRI機器の中にてうつぶせになって行い、所要時間は3時間程度と、日帰り手術も可能なものである。もともと超音波もMRIも体に大きな影響を与えないので、安全性は高いとされている。
このように、FUSはメスを入れることもなく、針を刺すこともないため、究極の術式と言えるのかもしれない。現在、乳がんにたいするFUSは国際間共同多施設臨床試験として行われており、この臨床試験に参加意思のある患者を募集している。詳しくはこちらやこちらで確認できる。また、この臨床試験に適応とならなくても、自由診療として治療を受けられるようだ。
・その他
その他、ラジオ波療法のように、乳がんに特別な針を刺して、マイナス168度で凍結させてがんを死滅させる「凍結療法」と呼ばれる方法もあるが、現在行われている施設はまだ少ないようだ。
なお、FUS以外の術式に関しては、治療方法で検索すれば、行っている医療機関はわかるだろう。
ただし、内視鏡を使った手術以外に関して言えば、現状は研究目的の臨床試験段階もしくは自由診療の域であり、どの方法も明確なエビデンスはまだない。とはいえ、乳がんになり、乳房をなるべく傷つけたくないという希望があるのであれば、検討の価値はあるのではないだろうか。どの治療法であっても、何よりも安全であることが大前提なのは当然だが、女性にとっては切らないで行える乳がん治療へ対する期待が大きいのも当然であり、患者の期待に確実に応えられる治療方法が、標準治療として早く確立されることを望みたい。
今回紹介した内視鏡を使った手術以外は、組織を外科手術で取り出さないため、病理診断をどうやって行うのか、術後の補助療法のためのサブタイプをどうやって決めるのか、といったところがよくわからないのですが、やっぱり乳房に傷が(あまり)つかないというのは、女性としてありがたいことであるのは間違いありません。
私個人は、今回紹介した治療方法を手術前に情報として知っていましたが、どうしても自分の乳房を今のままで保ちたいという希望はそれほどなかったので、選ぶことはありませんでした。また、私が治療を受けている大学病院では、上記に挙げた方法はどれも行っていなかったので、もしも、この中のどれかを選ぶのであれば、転院が必要になっていたと思います。
いくら自分の乳房にそれほど執着がなかったとはいえ、術式を決める前には一連の苦悩がありましたし、この苦悩は、乳がんにならなければ味わうことはなかったことでしょう。このBlog上でも何度か触れていますが、術後に自分の乳房がどうなるかがよくわからないまま、術式を決めるというのは、非常に大きなストレスでした。そして、悩む私に、主治医から「手術は通過点に過ぎない」という言葉がありました。もっともな内容ですし、その通りに理解しようと思いましたが、頭の中での理解と気持ちがかみ合うことは最後までありませんでした。
手術の前日、「温存術か切除術かを選ぶというよりも、乳房がどうなるかがわからないのならば、乳房を切り取るという手術自体を受けたくない」ということを初めて友達に話しましたが、それが私の本心でした。
手術が乳がんの治療における通過点であることは理解しているのですが、どうして「治療」という名の元に乳房を切らないといけないのか。手術をしなければ、死へと舵を切ることになってしまうかもしれないから手術を受けたということなのだと思うのですが、そのためにどうしてこんな行為を自分の体に行うという選択や決断をしなくてはならないのか、最後まで自分の中での答えは見つかりませんでしたし、この先も、答えは見つからないのでしょう。そして、自分が「生きる」ための決断をしたのは初めての経験でした。
こういった悩みが少しでもなくなるように、「切らない乳がんの治療」が主流になってほしいと願ってやみません。そうなることによって、乳がんの治療に対しての検査や治療を躊躇することがなくなり、命を落とす女性が減ることを祈りたいと思います。
おそらく、乳がんになった場合の典型的なマイナスイメージの1つに「手術で乳房を取る」があると思うが、このようにボディイメージの変化に対する恐れから、乳がんの精密検査や治療を先延ばしにしている女性がいるということも事実だ。
外科的治療は、初期治療の一部であり、「(部分的にしろ全部にしろ)乳房を切りとる」という局所療法だ。治療ではあるが、切除した乳房は変形するし、それなりの傷も残るといった不可逆的なものだ。 それらを避けたいのであれば、できるだけ傷を小さくする、もしくは、そもそも乳房にメスを入れないという方法がいくつかある。
傷の小さな手術
・鏡視下乳房手術(内視鏡を使った術式)
乳房にメスを入れない方法
・ラジオ波熱凝固療法(RFA)
・FUS(MRgFUS:MRガイド下集束超音波手術)
・その他(凍結療法など)
・鏡視下乳房手術(内視鏡を使った術式)
内視鏡を用いた乳がんの手術は、乳房にできるだけ傷を残さないことを目的に開発された術式だ。脇の下と乳輪にメスを入れ、そこから内視鏡を挿入て切除するというのが基本のようだ。腫瘍の部位によっては、メスを入れるのは脇の下のみ、または乳輪周囲と脇の下の場合もある。どちらの場合も、傷跡はほとんど目立たない。この術式は、乳房温存術と乳房切除術のどちらにも適用でき、乳房切除術と同じく乳腺を全摘した場合でも、皮膚に大きな傷を残すことなく、再建を可能としている。
なお、内視鏡を用いた乳がんの手術は2002年4月には保険適用になり、いわゆる乳房温存術と同程度の保険点数となっている。
内視鏡を用いた乳がん手術の成績としては、いくつかの施設内における内視鏡乳がん手術の成績を評価し、従来の乳がん手術と比べて遜色のない5年生存率などの成績を発表しているようだ。しかし、多施設における長期成績は出ておらず、内視鏡乳がん手術のエビデンスとして弱い部分とされている。また、手術にかかる時間が通常の術式よりも長くなりやすいかつ、特殊な医療装置が必要になるために、なかなか普及しないという背景もあるようだ。
内視鏡を使った手術は傷が小さいとはいえ、手術の1つである。以下は、乳房に「メスを入れない」という究極の局所療法である。ただし、どの方法も保険適用外のため、自由診療となる。
・ラジオ波熱凝固療法
がん細胞は42度から43度になると死ぬという現象を利用して、超音波、レーザー、マイクロ波、ラジオ波等を利用した新しい装置が開発され、ごく短時間で癌細胞が死んでしまう温度までがんを加熱することが 可能となっている。 このうち、ラジオ波を用いたラジオ波熱凝固療法(ラジオ波療法)は肝臓がんに対して2004年に保険適用も認められ、一気に全国に普及した。
ラジオ波療法は、がんの中に細い針状の電極を差し込んでラジオ波を流し、発生する熱でがんを焼く治療法だ。通常15分程度で終わり、手術が不要で傷も残らず、体への負担が比較的少ないのが特徴だ。
現在は肝臓がんの治療法として適用されているラジオ波療法だが、乳がんへの追加適用が検討されている。 ただし、 まだ乳がんに対するラジオ波熱凝固療法は、長期成績が存在しておらず、 センチネルリンパ節生検などと同様に実験的治療に位置づけられ、乳房に傷を残したくない、 乳房の変形が嫌だ、といった人がこの治療の基本的対象となる。
現在、この治療法を行っている病院施設は、臨床試験的な位置づけで行っているところと、臨床試験以外の自由診療として行っているところの2つのスタンスがあり、前者は臨床試験なので厳格なプロトコール下に行われるが、後者は個人の希望によるところが大きいとされている。近年、後者の自由診療にてラジオ波療法を行った患者が再発し、そのラジオ波療法を受けたところではない、ほかの医療機関に駆け込んでいるという報告が日本乳癌学会複数寄せられたとのこと。自由診療の場合は価格が30~40万円前後らしい。
・FUS(MRgFUS:MRガイド下集束超音波手術)
FUS(MRgFUS:MRガイド下集束超音波手術)とは、集束超音波(虫眼鏡の原理で超音波のエネルギーを1点に集める)により、病巣を焼灼する手術だ。またMRガイド下とは、MRIを施行しながら、病巣の場所を正確に特定し、治療している場所や温度変化を常に把握しながら行うことを指す。治療はMRI機器の中にてうつぶせになって行い、所要時間は3時間程度と、日帰り手術も可能なものである。もともと超音波もMRIも体に大きな影響を与えないので、安全性は高いとされている。
このように、FUSはメスを入れることもなく、針を刺すこともないため、究極の術式と言えるのかもしれない。現在、乳がんにたいするFUSは国際間共同多施設臨床試験として行われており、この臨床試験に参加意思のある患者を募集している。詳しくはこちらやこちらで確認できる。また、この臨床試験に適応とならなくても、自由診療として治療を受けられるようだ。
・その他
その他、ラジオ波療法のように、乳がんに特別な針を刺して、マイナス168度で凍結させてがんを死滅させる「凍結療法」と呼ばれる方法もあるが、現在行われている施設はまだ少ないようだ。
なお、FUS以外の術式に関しては、治療方法で検索すれば、行っている医療機関はわかるだろう。
ただし、内視鏡を使った手術以外に関して言えば、現状は研究目的の臨床試験段階もしくは自由診療の域であり、どの方法も明確なエビデンスはまだない。とはいえ、乳がんになり、乳房をなるべく傷つけたくないという希望があるのであれば、検討の価値はあるのではないだろうか。どの治療法であっても、何よりも安全であることが大前提なのは当然だが、女性にとっては切らないで行える乳がん治療へ対する期待が大きいのも当然であり、患者の期待に確実に応えられる治療方法が、標準治療として早く確立されることを望みたい。
今回紹介した内視鏡を使った手術以外は、組織を外科手術で取り出さないため、病理診断をどうやって行うのか、術後の補助療法のためのサブタイプをどうやって決めるのか、といったところがよくわからないのですが、やっぱり乳房に傷が(あまり)つかないというのは、女性としてありがたいことであるのは間違いありません。
私個人は、今回紹介した治療方法を手術前に情報として知っていましたが、どうしても自分の乳房を今のままで保ちたいという希望はそれほどなかったので、選ぶことはありませんでした。また、私が治療を受けている大学病院では、上記に挙げた方法はどれも行っていなかったので、もしも、この中のどれかを選ぶのであれば、転院が必要になっていたと思います。
いくら自分の乳房にそれほど執着がなかったとはいえ、術式を決める前には一連の苦悩がありましたし、この苦悩は、乳がんにならなければ味わうことはなかったことでしょう。このBlog上でも何度か触れていますが、術後に自分の乳房がどうなるかがよくわからないまま、術式を決めるというのは、非常に大きなストレスでした。そして、悩む私に、主治医から「手術は通過点に過ぎない」という言葉がありました。もっともな内容ですし、その通りに理解しようと思いましたが、頭の中での理解と気持ちがかみ合うことは最後までありませんでした。
手術の前日、「温存術か切除術かを選ぶというよりも、乳房がどうなるかがわからないのならば、乳房を切り取るという手術自体を受けたくない」ということを初めて友達に話しましたが、それが私の本心でした。
手術が乳がんの治療における通過点であることは理解しているのですが、どうして「治療」という名の元に乳房を切らないといけないのか。手術をしなければ、死へと舵を切ることになってしまうかもしれないから手術を受けたということなのだと思うのですが、そのためにどうしてこんな行為を自分の体に行うという選択や決断をしなくてはならないのか、最後まで自分の中での答えは見つかりませんでしたし、この先も、答えは見つからないのでしょう。そして、自分が「生きる」ための決断をしたのは初めての経験でした。
こういった悩みが少しでもなくなるように、「切らない乳がんの治療」が主流になってほしいと願ってやみません。そうなることによって、乳がんの治療に対しての検査や治療を躊躇することがなくなり、命を落とす女性が減ることを祈りたいと思います。
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by sunday_tourist
| 2013-05-08 20:02
| その他の治療など